音楽力(日野原重明・湯川れい子)に学ぶ 「孤独を癒やす音楽の力 ~同質の原理~」

書籍からやさしさを育む力について考える、架空の書店「あかり書房」です。


今回は2004年に発売された「音楽力」(日野原重明湯川れい子
を題材に、
「孤独を癒やす音楽の力 ~同質の原理~」
について、みなさんとともに学んでいきたいと思います。


あかり書房店主の私は、現在45歳の男性です。
高齢者施設で、介護ヘルパーをしています。

 

この私は、今はとても楽しく生活できているのですが、20代の前半は無気力で孤独でした。


毎日会社には行っているものの、特になりたいものもなく、成したいこともない。

 

周りに良い先輩や友人は沢山いたのですが、自分自身が無気力で人にあまり会いたくなく、殻に閉じこもり、孤独を感じていました。


今思えば、孤独を感じること自体は何も問題なかったのですが、「孤独を感じている自分を客観視できず、独りよがりな行動を取っている。」ことが、問題でした。

 

そんな私がある音楽に出会い、孤独な自分をありありと客観視し、孤独から徐々に脱することができました。
そこから、少しずつ外の社会に馴染み、人に少しずつ感謝できるようになってきました。

 

なぜ音楽によってそのように変われたのか、その後に読んだこの、「音楽力」という本で、その理由が分かった気がします。


今回はその理由をもとに、音楽の持つ力、孤独を癒やす力について考えたいと思います。


【音楽の持つ力 ~同質の原理~】
私の孤独がなぜある音楽によって癒えたのか。
その理由は、この本に書いてある「同質の原理」によるものだと、私は考えています。


この本では、以下のように湯川れい子さんが説明されています。

 

~以下引用~

 アートシュトラーという人が理論的に提唱したといわれている「同質の原理」なのですが、古くは、十六世紀ごろに、ヨーロッパのお医者さんが発見していて、たとえばうつ病の人がいたとします。
私たちは、うつ病の人に元気になってもらいたいと思って、陽気な楽しい音楽を聴かせようとしがちです。
 ところが、これはまったくの逆効果で、元気な音楽を無理やり聴かされた人は、さらに落ち込んでしまい、自殺してしまうことさえあります。
つまり、効果的な方法は、「同質の原理」に基づいて、うつ病の人の心の状態に一致するような、それと同質の音楽を聴かせることなんですね。

~以上引用~


私が当時癒されたのは、「レッドホットチリペッパーズ」というバンドの「アンダー・ザ・ブリッジ」という曲です。
この曲は、このバンドのボーカリストの絶望的な孤独を歌った曲とされています。
歌詞の内容は以下のようなものです。

 

「時々、俺には友達やパートナーが一人もいないって気分になる。
(麻薬を買うお金が無いから、)橋の下で血を抜いて、それを売っている。
ただ、俺の住む街(ロサンゼルス)だけは友達でいてくれて、一緒に泣いてくれている気がする。」

 

この歌詞の内容は、私の個人的状況、体験とは異なるものです。
しかし、この歌詞を読んで、「これは私のことをすべて理解し、書いた詩だ。」と当時思いました。

孤独という気持ちの「質」は同じだったからです。


なお、私はこの詩に惹かれてこの曲に気づいたわけではありません。

メロディを聴き、リズムを感じて深く感動し、「どんなことが歌われているのだろう?」と強く知りたくなったので、詩を調べたのです。


メロディは、静かで美しく、そして悲しげなものでした。

リズムはゆったりとしていて、ベースやドラムが出すビートはメロディの持つ悲しげな調べをなぞるような優しいものであり、決して強いものではありません。


なぜ、私はこの曲のメロディやリズムに気づき、癒やされたのか、その理由も、以下の湯川れい子さんの文章を読むと、理解できます。

 

~以下引用~

ほんとうに共鳴できる音楽を聴くことで、少し元気になる。
なぜかというと、そうした音楽の中には、情緒的に働きかける部分があると同時に、「リズム」「音楽としてのリズム」があるからです。
どんなに陰鬱な音楽でも、そこにはリズムがありますから、それが心臓や脳に働きかけて、ホメオスタシス(定常性)を活性化させるわけです。
それが、「少しだけ元気になる素」になるというわけです。

~以上引用~

 

曲の持つ情緒的な部分と、優しいリズムが、私の身体と共鳴したのですね。
「同質の原理」により、絶望的な孤独を歌った曲が、私の孤独とシンクロした。


そこで、私は理解された気持ちになり、自分が曲の主人公を観ることができ、自分を自分の人生の主人公として客観視できた。
だから、急速に孤独が癒やされたのだと今、思います。


【同質の原理を、生活に応用する】
この同質の原理を応用すると、より生活が豊かにする可能性が高まります。

 

例えば、大好きな曲について、なぜ大好きなのか、その曲のどの部分が自分の何と同質なのか、考えてみると、よりその曲を深く理解できます。
そして、その曲を理解することにより、自分自身を客観視し、深く理解できます。

 

また、大切な家族や友人など、自分が関係する人と接するときにも有効だと思います。
その人が落ち込んでいるときにはそのリズムと同調し、励まして元気にさせるのではなく、理解に努める。


理解した内容、あるいは仮に理解できなかったとしても、理解しようとする姿勢そのものが、その人の何かとシンクロする。
そうすると、その人が少しずつ自分を客観視し、周りが見えるようになり、回復に向かう可能性が高まることが期待できます。


同質の原理に基づく音楽の力を活かし、
・自分のその時の気持ちに合った音楽を選び、気持ちを癒したり、喜んだり、悲しんだりする。
・自分の好きな曲のどこが自分の何と共鳴しているのか考え、その曲と自分をより深く理解しようとすることを楽しむ。
・他者の気持ちの感じやリズムに同調し、他者に寄り添ってみる。
などして、生活に彩りを加えてもらえたら、嬉しいです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次回は
「本を読む人だけが手にするもの」(藤原和博
を題材にする予定です。

お楽しみに!